工業立地で 単身住宅ニーズ
苫小牧東部で賃貸住宅をはじめとする不動産投資が熱を帯びてきた。千歳市内の地価上昇や宅地不足を背景に、土地が割安なウトナイ地区や北栄などで、単身者をターゲットにした物件が張り付いている。市内の世帯数は増加傾向にあり、収益物件を求めて札幌の業者が続々と参入し始めてきた。今後、車で通勤可能な千歳市内の工業団地で大規模な半導体工場の計画があるなど、住宅ニーズはさらに高まることが予想される。
自動車関連の製造工場などが並ぶ苫東東部の工業団地群は、住宅需要に恩恵をもたらしている。
昨年、川上技建(苫小牧)は拓勇地区で2棟の木造3階建てアパートの施工を担った。「案件の依頼は着実に増えている」と同社担当者は語る。半分は法人の借り上げで、個人の入居者は近隣の工場関係者が多いという。いずれも単身赴任者や夫婦層がターゲットのようだ。
苫小牧市は近年、人口減少にもかかわらず毎年世帯数を増やしている(表参照)。2013年が8万5800世帯だったのに対し、22年は9万867世帯。自衛隊基地がある千歳市と比べると伸び率は劣るが、札幌圏と比較してもトップクラスだ。大手企業の支社に転勤してきた若い単身者の流入や、千歳のベッドタウンとしてのニーズが背景にある。
住宅需要の高さは家賃相場にも表れてきた。17年頃、40㎡程度の1LDKの相場は5万5千円前後だったが、現在は6万円超まで上昇している。
札幌・千歳の高騰 追い風
収益性を見込んで、地元不動産だけでなく札幌からも業者が入り始めた。常口アトムの仲井恒志苫小牧・千歳・恵庭統括マネージャーは「昨年、5-6社が苫小牧市内で土地を探しにくる動きがあった」と明かす。すでに数件の物件を札幌の業者が供給する事例も出始めているという。企業の異動状況もコロナ前に戻っているため、さらなる活況が見込める。札幌圏に比べて価格が安い分、利回りが取れるのも魅力の一つだと説明する。
東エリアは戸建を求めるファミリー層にも人気がある。購入者は市内だけでなく、土地高騰の著しい千歳からの転入も多い。地元の売買仲介業者によると、札幌から引っ越してくる人も1割程度おり高速で50分ほど掛けて車通勤するのも珍しくないそうだ。
しかし、坪単価の上昇や資材高騰により、現在市内で新築を建てるには3500万から4000万程度と割高になったため、動きは徐々に鈍化してきた。土地価格が割安な白樺、美原地区などの西エリアを選ぶ層や、中古住宅を求める層が出始めている。
半導体工場に耳目 業者・住民、域外から流入
今後、苫小牧の不動産投資をさらに刺激するのは、トヨタ自動車など主要企業8社の支援を受けて設立したRapidus(東京、ラピダス)が、千歳美々ワールドで計画する半導体工場だ。投資額は数兆円ともいわれ、広い範囲で関連施設ができることも予想される。
市内の不動産に詳しいアーガス鑑定の髙橋総生不動産鑑定士は、建設地が苫小牧寄りなだけに「働く人はものすごい数になる。苫小牧だけでなく安平や早来まで住宅需要が波及してもおかしくはない」と分析。千歳市内は土地が品薄なことからも、東部地区への流入はさらに進みそうだ。 (第1090号 2023年3月1日発行 1面 より)
Comments