戦後80年を迎え、道内の住宅不動産業界は、成長から成熟のフェーズに入っている。現在は高度成長期を支えた創業世代から、2代目や3代目の社長による経営が増加。先代の教えを受け継ぎつつ、新しい時代のニーズを捉えようと各社とも奮闘している。親族内で承継をした4社の経営者に現状や将来への思いを聞いた。
アサヒ住宅 三浦恵美子副社長
住まい手に寄り添う賃貸物件提供
就労環境の質的向上にも力
―受け継いだものは。
創業者である祖父が作った「経営五訓」が今も全社員の柱になっている。事業計画書の策定や、商品は常に本物を提供することなど、組織を運営するために大事なことが記されている。迷ったときはいつもここに立ち返る、心強い存在だ。
社員が朝礼で唱和する「社員7カ条」も支えになっている。私が好きなのは最後の「豊かな人生に夢と希望を持っている」という一節。仕事も遊びも全力というのが祖父と現社長である父の生き方だ。創業から年経ち、事業は新築戸建から賃貸投資事業に転換したが、軸にあるマインドは変わらず引き継がれている。私自身も、社員には公私ともに充実した人生を送って欲しいと願っている。
―理念の具体化について。
就労環境の質的向上に力を注いでいる。資格手当の充実や、管理ソフト導入による部署間の連携強化などで働きやすい職場づくりを心掛けている。一方で、家族と過ごす時間も大切できるよう、残業を減らして有給休暇を取得しやすい環境を整えている。
―新たに取り組みたいことは。
現在、当社はさまざまな住まい手に寄り添う個性的な賃貸物件の提供を構想している。1人暮らしを始めたばかりの若者から高齢層に至るまで、人生の中で何度も巡り会うのが賃貸物件の特長だ。例えばガレージ付き物件のような趣味を尊重した居住性の高い物件の開発を計画している。
人気のペット可物件も引き続き増やしたい。年7月に白石区で竣工した階建てRC物件は、入口にペットの足洗い場を設けるなど、分譲マンションレベルの環境を提供して好評を博した。今後も新たな特徴ある物件の開発と供給で、当社のファンを増やす。
人材育成にも力を注いでいる。自分が入社してから人事異動を増やした。さまざまな視点から会社全体を見られる社員を育てることが目的だ。迷いが見える時には積極的にコミュニケーションを図り、悩み解決や意欲向上の一助となれるよう心を砕いている。
―今後の経営方針は。
広げるのではなく、深めることを大切にしたい。オーナー様の満足度向上に資する物件や、入居者に喜んでもらえる部屋を一つずつ誠実に作り続ける。エリアもこれまで同様、札幌市内を中心に展開する。社内では、個々の能力向上の後押しと、情報共有の徹底で、よりきめ細やかな管理体制を構築したい。枝を増やさずに幹を太くするようなイメージだ。
―質向上への課題を。
人材確保が一番の課題だ。現場監督や技術者の不足は業界全体の問題でもある。当社が手掛ける賃貸物件は、設計者の個性が生かしやすく、意欲ある設計者のやりがいが引き出せると考えている。札幌を拠点に、転勤のない環境で現場監督ができるのもメリット。良い人材との巡り合わせに期待したい。
(みうら えみこ) 札幌生まれ。北大法学部卒業後、裁判所に就職。2019年にアサヒ住宅に入社、24年から現職。
(第1127号 第1部 1月1日発行 3面より)
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