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想いを叶える親愛信託 63 

第63回「遺産分割協議に使える親愛信託」



将来的には後見人が信託契約できる時代に


 遺言書があっても財産の分け方に不満があれば、裁判をして分け方を決めることになります。遺言書がなければ、相続人で話し合って財産の分け方を決めます。けれども、この話し合いがまとまらない時もあります。話し合ってもまとまらなければ裁判で決めることになりますが、裁判をすると時間も費用も掛かります。


 相続人が仲良しでお互いを尊重しあえるのであればスムーズに分け方は決まります。しかし、仲が悪いわけではないけれども、ちょっとしたきっかけで仲が悪くなるケースや疎遠になるケースがあり、その原因を作ったのが遺産分割協議ということにならないようにするために親愛信託を活用します。


 遺産分割協議ができることが前提ですので、話し合いができないほど仲が悪い場合やすでに相続人の中に判断能力がない人がいる場合には使えません。ただし、将来的には判断能力のない人のために後見人を申請して、その後見人に親愛信託の契約当事者になってもらうという時代が来るのではないかと思います。


 例えば、判断能力のない源三さんがいます。源三さんの兄弟が亡くなって、相続が発生し、法定相続割合ではなく遺産分割協議をするということで、後見人を申請します。選任された後見人は源三さんの権利を主張しますので源三さんも財産を持つことになります。しかし、源三さんの妻も既に判断能力がなく子もいませんので、源三さんの亡くなった後も困ります。


 遺産分割協議で源三さんが所有者になった財産について後見人が信託契約を締結できるようになれば、後見人が信託契約をして、後見人が外れても源三さんの財産はきちんと管理できるし、亡くなった後も引き継ぐ人を指定しているので、困ることもなく他の相続人も納得のいく方向性を決めることが可能になります。


遺産分割協議の際の親愛信託活用


 そういう世の中になるようにもっと親愛信託の活用を世の中に広めていきたいと思っています。源三さんのケースはまだ将来の話ですが、現状でも遺産分割協議に親愛信託を活用することができます。父親が亡くなったときに、長男がお金に困っているので長男に多く財産を渡し、母親が亡くなったときには次男に多く財産を渡すという約束をして遺産分割協議をしたのに、結局、母親が亡くなったときも長男は当たり前に権利を主張してきた場合、過去の約束は口約束に過ぎないので、結局次男が泣き寝入りするというようなケースがあります。


 このケースのように初めの相続の時の遺産分割協議で、将来の遺産分割協議を想定して、分け方を決めるということが割とあります。相続人が全員きちんと約束を守ってその通りに進めていければそれに越したことはありませんが、代襲相続が起こったり、当時はいなかった配偶者や家族が増えて、想定していた通りにはならなかったということにならないように、遺産分割をすると同時に、所有者になった人が委託者となり、親愛信託で思い描いた通りに財産が承継されていくように決めておくのです。


 先ほどのケースで父親の遺産分割協議は長男が半分、母親が半分、次男がゼロだとします。その遺産分割協議と同時に母親が次男を受託者として、信託契約を締結して自分の亡くなった後はすべて次男に財産が行くような契約にします。それですと「遺言でもいいのでは?」ということになりますが、遺留分がまだどうなるか分からないという前提で、その対策もするのであれば、母親の財産の4分の1を長男に渡す信託契約にしておき、長男にも信託契約を締結してもらい、長男に渡した財産のうち4分の1は委託者・長男、受託者・次男で、長男の死亡時にその財産は次男もしくは次男の子にいくようにしておきます。そうすることで、母親の死亡時、もっと言えば長男の死亡時を想定して、父親の財産の遺産分割協議をすることができるのです。


 所有権に慣れ過ぎてしまっているとピンとこないかもしれませんが、遺産分割協議がまとまらない時に親愛信託を活用することで、みんなが納得のいく分け方をすることが可能になるのです。



監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1116号 2024年6月16日 より 引用)







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