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想いを叶える親愛信託 62 

更新日:4月8日

第62回「生前贈与と親愛信託どちらがいいの?」



贈与は財産に関する覚悟を持って行う


 信託を検討するときに、信託の組成費用も手間も掛かるので、贈与してしまった方が良いのでは?という意見があります。確かに状況によっては贈与の方が簡単な場合もあります。一概にどちらがいいと言えるものではなく、それぞれの状況で信託か贈与か選択することが大切です。


 例えば財産Aを甲が持っていたとします。贈与を選択し乙に財産Aを贈与すれば、甲は今後一切、直接財産Aに関わることはできなくなり、財産Aについては乙が所有者として全ての権限を行使し利益を得ることになります。


 当たり前ですが甲の物でなくなってしまうということです。そして、乙が贈与税を支払うことになります。万が一、乙の財産Aに対する行為に不満があったとしても、財産を取り返すためには、乙が承諾しないといけなくなり、乙が承諾してくれて財産Aを甲に戻すと甲がまた贈与税を払うことになります。


 通常、乙は一旦贈与税まで払って自分のものになったものを返すというようなことはしないと思うので、贈与を選択する場合には二度と自分はその財産に関与しないというような覚悟を持って行動する必要があります。


 贈与税が掛かるという点もありますが、贈与してしまうと二度と自分の自由にはならなくなるという事で贈与することをためらっている人が多いのではないでしょうか?


贈与か信託かの選択は案件内容で判断する


 一方、親愛信託を活用すると、財産Aについて、乙が受託者として管理処分等の権限だけを持ちます。財産権は甲が持ったままなので、乙の自由になるわけではなく、甲の意思で締

結した信託契約の内容に従うことになります。そのため、基本的には所有者だった時のまま甲が権利を行使することができます。乙の管理が気に入らなければ受託者を他の人に変えることもできます。


 贈与税に関しては、乙と信託契約を結び乙に名義が移動しても財産権は甲が持ったままなので課せられません。受託者を乙から他の人に変えたとしても財産権は甲が持っているので同様に課せられません。財産権が動いたときにしか贈与税は掛からないのです。


 財産Aが不動産の場合、贈与ですと登録免許税が2%と乙に不動産取得税が課せられます。親愛信託を選択すると登録免許税は土地が0・3%と建物が0・4%になり、乙は財産Aを取得していないので取得税は課せられません。ただし、甲が財産権を持ったままなので、甲の死亡時に財産Aはみなし相続財産となり、相続税の対象になります。甲の死亡を待つことなく、乙が受託者として財産Aを管理しながら受益権を誰かに贈与することはできます。甲の好きなタイミングで好きな割合で贈与することができるのです。


 贈与してしまった方が簡単ですが、親愛信託を使った方が自由度もあるし、後から変更する事も容易になります。少しでも変更する可能性があったり、贈与する事にためらいがあるのであれば、親愛信託を選択した方が良いと思います。


 また、財産Aが収益性の高い財産の場合、早い段階で贈与したほうが甲の財産が増えずに贈与した後の収益は乙に入るので、結果的には甲の相続税対策になります。そのため贈与を選択した方がいいケースもあるでしょう。しかし、甲の物ではなくなってしまうというリスクは残ります。


 そのような場合は親愛信託を活用して、受益権を贈与するという方法を取ります。そうすると甲が財産Aに対して関わり続けることもできるし、甲の相続税対策もできます。親愛信託は所有権のように一人の人間が全ての権利権限を持つわけではないので、契約の内容によっては自分以外の複数の人に関わりを持ってもらい協力を得ることができます。ただし、逆にそれが煩わしいという方もいます。そういう方は贈与を選択すればいいと思います。まとめると、贈与と信託どちらが優れているというものではなく、税金の問題、流通税の問題、甲の関わり方の問題を考えて、その案件に合った選択をすることが大切だということです。



監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)

よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長


略歴


16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。

著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。


(第1114号 2024年5月1日 より 引用)







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