第36回「どのくらいの財産があったら親愛信託の対象?」
信託が必要な人はどんな人なのかが大切
親愛信託を活用する人は財産がたくさんある人だと思っている方がいます。「だいたい総額いくら位からが、親愛信託の活用の対象になりますか?」という質問を受けることが多くあります。ここ数年、認知症対策の家族信託が普及してきて、お金持ちだけではなく将来自宅を売却するために信託をするという認識もひろがってきていますので、それほど財産がなくても信託を検討するという方もいます。
ただ、収益不動産所有者などは、実家売却が目的ではないので、「そこの財産額の基準はどこなんだろう?」というのが疑問になるようです。不動産業の方は、実家を売却することに関わることも当然あると思うので、財産の総額の大小ではなく、「信託が必要な人はどんな人なのか」ということを理解していると適切にアドバイスできることになります。
親愛信託を活用するためには費用が掛かるので、財産の総額が少ない人には提案が現実的ではないと思ってしまいがちですが、一概には言えません。
これまでに私が受任した案件で、金銭のみ200万円が信託財産というものがありました。このケースはこれ以上財産を減らさないように親愛信託を活用するというものでした。扶養義務のある人が、本人の財産が減ると結局は自分が面倒を見る必要が出てきて将来の負担が増える可能性があり、本人の財産の流出を止めるために本人の財産を信託財産にして、本人の金銭で今後も生活していって欲しいというものでした。
年金が入ってくるので普通に生活していれば年金だけで十分やっていけるのですが、無駄なお金を使うのでどんどん貯金が減っていき、このままにしておくと貯金を食いつぶしてしまって、自分が面倒をみないといけなくなるのがわかっているので、これ以上本人の財産を減らさないために信託財産にするというものです。
本人は認知症などではなく、単に周りにちやほやされたいために必要以上の金銭を使ってしまうというものなので、判断能力はしっかりあります。そのため後見制度は使えません。悪気のない浪費家のようなものです。扶養義務のある人が、自分の将来の出費を防ぐために信託を活用したのです。
財産を守り、出費増を避けるための信託活用
このケースだけでなく将来の出費を防ぐために信託を活用するというケースは他にもあります。相続でもめないようにというのもその代表的なものです。もめてしまうと弁護士費用が掛かり、自分の時間もたくさん使って、使わなくてよいものをたくさん使うことになります。それを防ぐ手段として、相続で揉めないように信託財産にしておき、相続財産から外しておくのです。
もう一つは、連絡の取れない人がいるなど、相続の手続きになると困るケースです。相続人を探したり、連絡を取って納得してもらうなど、このケースも時間とお金を使うことになります。今の財産の総額が多くて、将来の相続「税」対策のために親愛信託を活用する場合もありますが、財産額が少なくても将来の出費を減らすために親愛信託を活用するということがあるのです。
そのため、「財産の総額がいくらから信託を活用する対象になるか?」というのは、金額ではなく「その方の財産の種類がどんなものか」「その財産をどのように使うか」「どのように承継するか」ということの方が大切なのです。
認知症対策のために不動産を家族信託するということがありますが、この場合には金銭にしてから信託を終了することが大切です。死亡により信託を終了させるケースがあると思いますが、認知症対策の必要がなくなったからといって不動産のまま信託を終了させてしまうと、信託しなかった場合より思いがけず多くの費用が掛かるケースがあるので気を付けなければいけません。財産を守るため、また出費を増やさないためにも親愛信託を活用するということです。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1071号 2022年3月16日号 より 引用)
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