-第35回-
「不動産を所有権で渡す場合と信託受益権で渡す場合の違い」
想いを叶えるには限界がある所有権
不動産を親族ではない後継者や子供などの親族、もしくは法人に渡す場合、誰にどのような方法で渡すことがベストなのか考えます。
譲渡、贈与、相続で渡すという手段を考え、さらに税金の問題などに加え、渡す相手が本当に不動産を渡すのにふさわしい人なのかということなども考える必要があり、なかなか対策が進まないという方も多いのではないでしょうか?
これまでの方法に加えて、親愛信託という方法を選択肢の中に入れる人が増えています。これまでの方法の場合、所有権という形で不動産を渡すことになりますが、親愛信託を選択すると所有権とは違う形で不動産を渡すことになります。
所有権を持っている所有者はその不動産のすべての権限・権利を持ち、不動産1つ1つにそれぞれ所有者がいます(図表1)。所有者は誰の承諾を得ることもなく、不動産を売却したり、リフォームしたり、何でも行うことができ、所有者以外の人がその行為をすることはできません。
後見人が付いている場合など特別な場合はありますが、そのような場合は所有者の意見や想い通りにはいかないことになってしまいます。所有権は絶対的なものですが、想いを叶えるには限界があります。
信託目的達成のため 信頼できる信頼できる人が協力
一方、親愛信託の場合は、信託を終了するまで所有者という人はいなくなります。親愛信託を終了して、信託財産の精算手続きをすると、所有者がその不動産を持つことになります。信託の手続きをすると、1つの契約の対象になっている不動産は合わせて信託財産となるので、1つ1つそれぞれではなく、契約の中でまとまった不動産に対し、元々財産を持っていた所有者が委託者という立場で行う信託の手続きで受託者と受益者という立場になる人を決めることになります(図表2)。
その中でその不動産に対して様々な仕組みを作ることができ、自分以外の登場人物を増やし、役割を設定することができるのです。自分が不動産を管理できなくなっても、自分がいなくなっても、親愛信託の手続きで決めたことがそのまま実行されていくのです。
仕組みの代表的なものは受託者に名義が変わり、信託財産について権限を持つことです。権限の内容は契約ごとに決めることができます。信託財産を処分したり、信託財産を使って新たな財産を取得したり、その内容は自由に決められます。当初の受託者の次の受託者を決めておき、交代のタイミングを決めておくこともできます。
受益者も次の受益者と交代タイミング、たとえば死亡時などを決めておくことができます。その他、受益者の代わりに受益者の権利を行使する受益者代理人、信託全体を見守る信託監督人、受益者を変更できる受益者変更権者など、様々な役割と内容を決めておくことができます。
そのため、受益者が信託財産に対して権利を持っているからといって何でも自由にできるわけではないのです。もちろん自由にできるような内容にすることも可能です。所有権で渡してしまうと所有者の自由になり、所有者以外の人が財産に対して口出しできなくなるのに対して、親愛信託を使うと信頼できる人が協力して信託の目的を達成するということになります。
また、自分で権利を行使できない人に受益権を渡すことができたり、所有権を渡してしまうことが不安な場合に協力者を設定して、信託受益権として渡すこともできるのです。所有権ではできないことが、親愛信託することで実現できるのです。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1069号 2022年2月16日号 より 引用)
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