第33回 「どんな人が信託を活用するべきなのか」
親愛信託活用でしか解決できないケース
次のような希望がある場合には親愛信託を活用しなければ、所有権のままや後見、遺言などでは解決できません。
①自分で財産を持ったまま、管理だけを誰かに任せたい
②自分の信頼できる人に決めた方法で管理を引き継いでいってもらいたい
③相続の手続きが困難な人が相続人の中にいる
④自分で財産を管理できない人に財産を残したい
⑤自分の決めた人に財産を承継していきたい
① 生前に贈与や譲渡してしまうと自分のものでなくなってしまうので、それは避けたいけれども、高齢になってからも自分で財産の管理をする自信はない場合。所有権で渡してしまうと後継者を変更するのに再度資金も必要になり、課税の問題も出てくるので、できるだけ負担を少なく、将来変更できるようにしておきたい。また、財産権を残す人とは違う人に管理をしてもらいたい場合。自分の会社を親族ではない人に継がせる場合などです。
② 自分の持っている財産について、自分の決めた方法で、信頼できる人に管理を任せていきたい。たとえば、不動産について、「ファミリー限定で貸して欲しい」、逆に「単身者限定で貸して欲しい」「売却してほしい」など、その財産をどういう風に管理や処分してほしいか決めておくことができます。1人だけでなく、託した人が死亡や諸事情により管理できなくなった時のために次やその次の人も決めておくことができます。
③ 相続人の中に連絡が取れない人や行方不明の人がいたり、海外や遠方にいる人や判断能力のない人などがいる場合。遺言書があれば解決できることもありますが、信託の方が相続の手続きが必要ないので、受益者が死亡したことが分かるものがあれば良く、手間が少なくてすみます。多くの場合、時間がかかったり、もめる原因になるのは相続の手続きをしているときなので、相続の手続きを避けたい場合などです。
④ 配偶者がすでに認知症になっていたり、障がいがあり判断能力がないが、財産を残してあげたい。また、配偶者は財産を持っていないため、配偶者の相続税の軽減を使った方が相続税対策になるが、すでに認知症になっており、所有権のまま渡してしまうとその財産は動かせなくなってしまうので、受託者に管理を任せて、受益権で渡すようにしたい。未成年の子に財産権を承継させたいという場合などです。
⑤ 自分の財産権は、直系血族で承継していきたい、もしくは、法定相続人ではない人で引き継いでいきたいなど、自分の財産権を引き継いでいく人が明確に決まっている場合や決めておきたい場合などです。
自由さがあるからこそ難しいとのイメージ
不動産や会社の株式や金銭などそれぞれ大切な財産の内容や額が違うように、想いも違います。契約や手続きを勧める側からすると、どのような人に親愛信託が活用できるかということを自分の中で整理をしておいて、相談があったときや顧客の中にそのようなケースがあった場合に情報として提供してあげることが大切です。
信託は難しいと言われますが、あまりにも自由に決められるため、決めないといけないことがたくさんあるのが難しいと感じられるのが原因だと思います。オーダーメードの方が自分の好みに合ったものが出来上がるけれど、既製品で出来上がりがすぐに確認できる方が選びやすいというのと同じだと思います。
ただし、既製品の中から自分にあったものを探すことが大変ですし、もしもそれが自分に合わなかったときに自分に合うように作り替える方が手間も費用もかかり、場合によっては最初から違うものにしないといけなくなるかもしれません。不動産などの財産を持つときに、将来のこともしっかり計画して取得することが大切です。自分に当てはまる親愛信託の活用方法を見つけてもらえればと思います。 監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト理事長
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1066号 2021年12月1・16日合併号 より 引用)
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