第23回「亡くなる順序が変わったらどうなる?」
順に亡くなるとは限らない 遺言には制約・限界もある
自分と家族の将来のために対策をしている方は多いと思います。遺言を書いたり、生命保険に加入したり、対策をしっかり取っていても、亡くなる順番が変わったらどうなるか考えたことはありますか?
いろいろな方から相談を受けますが、勝手になくなる順番を決めている方に出会います。「私たち夫婦には子供が1人しかいないので子供の将来が心配です。パパが亡くなった後、私と子供の2人になるので、私が亡くなるときに子供に財産を遺せるようにしておきたいのです」というような相談を受けます。
確かに平均寿命から言えば、女性の寿命が長いので、年齢が同じならば男性が先に亡くなる確率は高いですし、子供が一番長生きする確率が高いです。しかし必ずそうなるとも言い切れません。特にコロナ禍の今、年齢や平均寿命で亡くなる順番を想定していても、そうではなくなってきているのも事実です。
コロナ禍では、亡くなることはなくても入院すると一切面会ができない、元気でも施設暮らしだと面会ができないというようなことになってきています。窓口にあるモニターで部屋の中にいる家族とオンラインでしか交流できないというような話も聞きます。
遺言を書く予定にしていたけれど、施設から出られないし、行けなくなってしまったということも聞きます。中には運悪くそのままお亡くなりになって、手続きが大変という方もいます。相続対策や財産の対策はお年寄りだけに関わることではなく、財産を持っている人は誰もが考えないといけない問題になっています。
遺言保管制度が始まり「まず遺言を書いておこう」という人も増えていると思いますが、やはり遺言だと書ける内容に限界がありますし、遺言の内容を変えたければご本人が必ず書き換えなければいけません。
たとえば、先程の相談者のように亡くなる順番を決め、遺言で「すべて妻に相続させる」と書いておき、奥様が「すべて子供に相続させる」と遺言書を作っておいて、その順番通りに亡くなれば望みは叶います。また、妻が先に死亡していた場合は子に相続させるという予備的条項を入れることもできますが、遺言だと予備的条項を入れるのに限界があります。
財産の道筋を決め変化にも 柔軟に対応できる親愛信託
では、遺言ではなく親愛信託を活用した場合はどうでしょう?「自分の財産をどうしたいのか」ということをきちんと決めて目的に書いておきます。そして、もしも自分に判断能力が無くなったり、何かの事情で直接信託契約に関われなくなったとしても、自分の代わりに自分の信託契約の変更ができる人を決めておくことができます。もちろん信託契約の中で指定しておく必要があります。
契約の変更ではなく、信託財産に対して権利をもつ「受益者」を変更する人を決めておくこともできます。信託財産を管理する「受託者」に関しても、「もしも当初の受託者が管理できなくなったらこの人にする」というのを決めておけば、受託者が辞任して次の受託者に代わることもできますし、もし先に受託者が亡くなればあらかじめ決めておいた次の受託者が亡くなった人の代わりに就任して、その後、信託財産の管理を行うことができます。
親愛信託は、とても自由度の高いものです。自分の財産に対して自分のわがままを決めておけるとても便利な仕組みです。
所有権のままですと、その財産の所有者の意思表示と手続きが必ず必要になります。親愛信託を活用して、自分の財産を信託財産にしておくと、その財産について道筋を決めておくことができ、たとえ亡くなる順番が変わっても、管理能力が無くなる順番が変わっても対応できるようにしておけるのです。
何が起こるか想定することが難しい今、大切な財産は親愛信託を活用して将来に備えておくべきなのです。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1049号 2021年2月16日発行 より 引用)
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