第21回「子供がいない夫婦の信託の活用」
配偶者への引き継ぎ後についても 意思表示できる
「自分が天国に行くときに自分の財産はどうすればいい?」と、みなさん一度は考えたことがあると思います。子供に渡さないといけないわけではありませんが、なんとなく子供に遺すと考える方が多いと思います。子供を含め相続人には遺留分という制度もあるので、相続人の中でどう配分して残そうかと考えるでしょう。ただ、本当は相続人に遺さないといけないわけではないので、そこに縛られずに自分の渡したい人に遺せばいいと思います。
子供がいない人が誰に自分の財産を渡すのか、それぞれの家族構成や置かれた環境で違うと思いますが、きちんと意思表示をしておく必要があります。子供がいれば何も意思表示はしていなくても法定相続があるので、自然に子供に引き継がれます。
それぞれ配偶者がお元気なら配偶者に引き継いでもらえば良いですが、配偶者がいなくなった後どうするのか考えておかないといけません。血のつながりのある親族に渡すのか、血のつながりのない友人や親しい人、または法人や応援したい団体に渡すのかを決めておかなければいけません。
お互いに自分がいなくなったら自分の財産は配偶者にいくようにという遺言書を書いているご夫婦は多いと思います。では、配偶者にいった財産はそのあとどうなるのでしょう?
状況に応じて考えながら変更していける 親愛信託
一例として、子供のいないご夫婦のご主人が亡くなり、お互いに自分の財産を配偶者に遺す遺言書があったケースでは、それに基づいて奥様名義にする不動産の相続登記をし、そのあと奥様の遺言書を書き換えました。
奥様の妹とご主人の弟にご主人から引き継いだ財産を遺す遺言書を書く予定でしたが、ご主人の弟からは断られたそうです。奥様は妹さんに渡すのは構わないけれど妹の子供、つまり甥姪には渡したくないというご希望があり、結局、将来的にはお世話になっているお寺さんに財産を遺すという遺言書になりました。
もともとはご主人の財産なので、ご主人がどうしたかったのだろうというのを考えるのにとても悩んでおられました。この場合、ご主人がお元気な時に信託財産にしておけば良かったのです。
どうすれば良かったかというと、ご主人の財産を自己信託にします。そして、不動産とまとまった金銭、ご自宅と生活に使う金銭の2つの契約にします。どちらも一部の受益権は奥様に渡しておきます。そして自分が亡くなった後の予備受託者を奥様、次の受託者を妹さんもしくはお寺さんにします。
ご主人に直接意見を聞けるので、ご主人の意思を尊重します。受益権はご主人、二次受益者を奥様、三次受益者を妹さん、四次受益者をお寺さんもしくはご主人が遺したい人にしておきます。金銭は受益権を持っている人が使い減っていき、そのうちなくなりますが、不動産はどこかのタイミングで売ってお金にするか、そのまま不動産として持っておくかということになります。
最後に誰に渡したいのかを最初に財産を持っているご主人が決めておくと遺された人はそれに従えば良いのです。もしも誰に遺すのか決まらない場合は、信頼できる人に選んでもらえるように受益者指定権者になってもらいます。受益者指定権者は自分が受益権をもらうわけではなく、もらう人を決める人です。法人でもよいので、信頼できる法人やこの場合お寺さんになってもらっても良いと思います。
選んでもらう人の候補を妹と弟と姪と甥などある程度特定しておくことも可能です。子供がいないなど法定相続人がいないケースは信託を使うと有効的です。「将来どうなるか分からない」「その時の状況に合わせてほしい」「管理する人と権利を渡す人を別々の人にしたい」などという願いは親愛信託でないと叶いません。もし共有財産があるのであれば、なおさらきちんと準備をしておかないといけません。
ご自身がお元気な間は自己信託を活用してまず信託財産にしておき、ゆっくり考えながら変更していけば良いと思います。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1046号 2020年12月16日発行 より 引用)
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