第20回「障がい者の子供がいる場合の信託の活用」
子供自身が 所有権として持つ財産は多くしない
障がいをお持ちのお子様がいる方は、その子だけでなく、親の老後も考えておかないといけなません。子供の老後と自分たちの老後と2段階のことを考えないといけないため、経験者のアドバイスを受けたり、行政の仕組みなどもしっかりと知っておく必要があります。
そして子供の年齢によっても対策が変わってきます。子供が未成年の間は親が親権を持ち、子供の代理権を持っているので子供の代わりに法律行為をすることができます。…ということは、成人するとたとえ親でも子供の代わりに法律行為ができなくなるのです。
判断能力のない子供が成人すると親でもその子の財産には法的に手を出せなくなるのです。
もちろん実務的には親ができることが多いと思いますし、後見人の申立てをして親を推薦すると認められる確率は高いと思います。ただ、身内が後見人として認められる基準は財産状況によるので、子供自身が所有権として持つ財産は多くない方がいいです。
「財産があればなんとかなる」と子に財産を持たせてしまう親がいますが、できればやめていただきたいと思います。判断能力のない子の財産にしてしまうと、その時点でその財産は凍結状態、動かせないものになってしまいます。後見制度を使い後見人がその財産の管理や運用をするようにすることもできますが、裁判所の許可が必要になります。
親愛信託を活用し 早めに皆が幸せな方法を取る
ここで信託を使います。障がいのある子に渡すのは所有権ではなく、信託受益権で渡すのです。ちょっと高度なテクニックとしては、子供が未成年のうちに親が代理人として任意後見契約を締結し、将来後見人になれるようにしておき、その子が所有権として持つ財産を信託財産にするというようなこともできますが、ややこしいのでご興味のある方は個別にご相談いただければと思います。
ただこれは判断能力のない子が未成年のうちしかできないので、成人した障がいのある子の場合使えません。障がいも身体的障がいの場合には判断能力はあるので、成人してもご自身で信託契約も任意後見契約もすることができます。
ただ、ご本人に所有権としての財産はあまり持たせない方がいいというのは同じです。ご本人に入って来る金銭等…たとえば障がい年金や働いている場合のお給料等はご本人の物なので、ご本人で管理するしかありません。なんとなく本人のお金は使わないであげたい気がしますが、対策として、できる限りこれから使うことにします。そうして本人が所有権として持つ財産はできる限り少なくなるようにしておきます。
そこで大切なのは親の財産です。ご両親もしくは祖父母など、将来その子に承継される財産はすべて信託受益権になるようにしておきます。そうすると障がいがあるお子様はご自身で財産を管理することはなく、利益だけをもらい続けることができます。後見人がついたとしても受益権になっている財産に関しては関与できないので、その子の自由にすることができます。
自由と言っても受託者がいますし、受益権ですと制限を付けることができるので、無駄遣いができないような対策をすることができて安心です。ただ、信頼できる人の協力が必要になるので、親がいなくなった後、誰に託すのかという問題は残ります。ある程度の財産や規模があれば同じような問題を抱えた親同士で一般社団法人を作ることもできますし、信託は親族や相続人でなければいけないという縛りもありませんので、親の信頼できる人にお願いすればよいと思います。
子供が複数いる場合に「障がいのない子供に障がいがある子のお世話をお任せする」というのはよく聞く話ですが、障がいのない子の将来も考えて負担になり過ぎないように配慮は必要です。それがために結婚できなかったという例もたくさんありますので。親愛信託をフル活用して親も子供もみんなが幸せになる方法を早めに取っておくことが大切です。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1043号 2020年10月16日号 より引用)
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