第11回「相続で共有になってしまった。それぞれの相続人が遠くに住んでいる」
法定相続で不動産を登記してしまうと…
不動産の所有者である方がお亡くなりになると、誰が引き継ぐのかという問題が出てきます。遺言書があればその通りに引き継げばよいのですが、遺言書がない場合に誰が引継ぐのかが問題になってきます。残された相続人で、遺産分割協議をして誰かに引き継がせるということもできます。
しかし、相続人の中にすでに判断能力のない人がいる場合は遺産分割協議が出来ません。その時には法定相続割合で分けるか、後見人を付けて遺産分割協議をすることになります。相続の時に遺産分割協議が必要ないように、信託財産にしておくか、せめて遺言を書いておく必要があります。
遺産分割協議ができる状況でも、法定相続割合で共有にするという方法を取るケースをよく聞きます。民法で決まっている割合に応じて法定相続人で共有し相続するという方法です。
人がお亡くなりになってから様々な手続きを行いながら相続税の申告等も行わないといけないなど、慣れないことをしないといけないため、誰がどの財産をどう引き継ぐのか話し合う余裕がないのと、揉めごとを避けるために法定相続割合で共有にするということだと思います。その時に困るのが、共有持分を持った人が認知症になる事と共有者が遠方にいる場合と将来共有者の意見が合わなくなる場合だと思います。
共有持分を持っている人の認知症対策として、認知症になる可能性がある人の持分を信託するという方法があります。不動産全部ではなく、共有持分の持分を信託するということもできます。お父さんが亡くなった時にお母さん2分の1、お姉ちゃん4分の1、弟4分の1法定相続で共有にしたとします。お母さんが認知症になってしまって施設に入ることになり、その自宅不動産が必要なくなったとしても、お母さんが認知症になってしまっているので売却することができません。
そうならないように、お母さんがお元気なうちにお母さんの2分の1の持分を信託財産とする契約を子供のどちらかと結んでおきます。そうするとお母さんがもしも認知症になってもその自宅不動産を売ることも貸すこともできます。
名義と権利を分離 信託契約の利点
一方、それぞれの相続人が遠方に住んでいる場合に共有になっている不動産を売却するとなると、郵送で何度も書類のやり取りをしたりと非常に大変で、時間もかかります。そんなときにその不動産を信託財産として、一人の名義にしておき、その不動産の権利をそれぞれが法定相続割合で持つということにします。
お父さんがいて、すでにお母さんは他界していて、子供が5人いたとします。不動産が1つだけだったり、いくつか持っているけれどそれぞれの価値が違う場合など、分け方が難しいですよね。法定相続割合で相続して、それぞれの持分を信託財産として、一人の名義に集約する。そうすると沖縄と北海道と四国と東北と…と相続人が遠方に住んでいたとしても、一人の名義にしておくことで、その名義人一人の書類と印鑑でその不動産を貸したり売却したりできます。
もちろん、名義人になった人の自由にできるわけではなく信託契約書に書かれた通りに管理したり、処分したりしなければいけません。それぞれが自分の持分を信託財産としているので権利は持っています。家賃や売却代金などは入ってきた金銭をそれぞれで分けることができます。親愛信託を使うことで、避けた方が良いと思われている共有も相続人が揉めることなく、悩むことなく分けることができます。
もし、法定相続割合に不満があるということであればそれはまた別の問題です。相続人が遠方に住んでいて、相続不動産を直接持てないケースでも分け方を決めかねている場合でも、共有持分を持っている人が認知症になる心配がある場合でも親愛信託を使うと解決することができます。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1028号 2020年2月16日発行 より 引用)
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