中古マンション価格が全道的に上がっている。東京カンテイによる直近の調査結果を5年前と比較すると、人口増加が続く札幌市内だけでなく札幌近郊の市、また函館、小樽といった人口減少市でも大幅な価格上昇が見られる。地域住民の絶対数とは一見無関係にマンション価格が高騰する背景には、高齢社会の進行にともなうライフスタイルの変化がありそうだ。
2021年9月の中古マンション平均価格(70㎡換算)は札幌市内で2012万円となり、16年9月以降の5年間で37%の大幅上昇をみせた。
特に人気の中央区内は2460万円と道内でも最高値。北区が2148万円(道50%増)、東区も2279万円(道57%増)といずれも2000万円台を超え、旺盛な中古住宅ニーズを示している。
価格上昇の背景として最も想像しやすいのは、人口増だろう。その象徴である札幌市は、中央区を筆頭に、転入者数が転出者数を上回る「社会増」の状態にある。
その一方で、高齢化の進行によって死亡数が出生数より多い「自然減」も続くが、社会増の勢いの方が強いため人口が増え、マンション不足気味となる。
さらに、最近では札幌市内各区で高層マンションを備えた再開発計画が至る所で進む。新築には実需だけでなく投資目的のマネーも入り込み、価格上昇も相まって現実の住み手への供給ペースが追いつかない。こうして中古が値上がりする構図だ。
だが実際には人口減少地域でも大幅な価格上昇が見られる。5年間で人口が1万7000人以上減った函館市では、同じ期間に中古マンション平均価格は34.6%増の1451万円となった。同様に1万人強減った小樽市では、82.2%増の1608万円と価格は2倍に近い。
近年、函館、小樽では年配者による住み替えや、医療機関などが備わった町中に住まいを求める傾向が出ている。
しかし、そうした立地にあるマンションの物件自体が少なく、新築分譲はなかなか供給されないことから、中古相場を押し上げている格好だ。
札幌近郊の成長地域「KIECE(北広島、石狩、江別、千歳、恵庭)では将来性への期待もありそう。北広島市は23年初の北海道ボールパークビレッジ(BP)開業が近づく。人口こそ1300人強減だが、中古価格は1441万円で5割増となった。
16年、21年それぞれ9月に5件以上の売買事例があった20の市区のうち、価格が下がっていたのは旭川、帯広、岩見沢の3市のみ。残り全てが、最低でも20%を超えるのびをみせる。
単なる札幌一極集中や、投資マネーの流入だけでは説明しにくい現象だ。何が起きているのか。
マンション価格高騰の一因は高齢世代-。こうした味方が専門家の間で強くなっている。
住み替え先のポイントはリタイア後の利便性高い「駅近」
東京カンテイ市場調査部の井出武上席主任研究員は、中古マンション値上がりの一因を、高齢者による住み替えニーズと見る。「雪国では、除雪などをしなくていいマンションの需要が高齢者の間でじわじわと高まってきている。欲しい人が増え、物件がなければ当然値段も上がる。北海道だけでなく、こうした住まいの変化が全国の地方都市で起きている」(同氏)。
“住み替え世代”としてのシニア人口は全道で増えている。今回の20市区のほとんどが、65歳以上人口を数千人単位で伸ばしている。小樽が唯一減少したものの、落ち幅はわずかだった。
もともと未婚、離婚などから単身世帯が増えていたところに、子供が巣立った夫婦も耐力や経済力に見合った住まいを求めるようになり、中古マンションがその受け皿になっている可能性がある。
土屋ホーム不動産函館支店の担当者は「中古物件は出ればすぐに売れる。オーナーチェンジ物件(賃貸)もあるが、高齢者が居住のために買う例が多い。戸建からマンションに住み替える客を何度か担当したこともある」と話す。函館は観光地という特性から、別荘需要もある模様だ。地元の景沢周平不動産鑑定士は「新築マンションはすぐに売れてしまうが、夜に明かりがつかない戸もあり、セカンドハウスとして買われていることも考えられる」と指摘する。
井出武上席主任研究員によれば、住み替え先のマンションとしてポイントになるのは「駅近」だという。多くの場合、病院や買い物、学びと行ったリタイア後の生活に便利だからだ。
建てた家への永住にこだわらない人が増え、資産を持つシニアを中心に戸建からマンションへの住み替えが起こっている。かつて「集合住宅から戸建てへ」だった感覚は、「戸建てから駅近のマンションへ」と変わりつつある。
(第1066号 20201年12月1日号 1面より)
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