第7回目 「ペット信託®」と「不動産」
ペットも大切な財産 将来への計画が必要
ペットと不動産。その共通点は何でしょう?まず、財産であるということ。ペットも動産ですから財産ですよね。そして、持ち主(飼い主)にとっては大切なものだということです。ただ、どちらもきちんと計画的に買(飼)わなければ最終的には厄介者になり、行政のお世話になってしまいます。
空き家問題や殺処分が社会問題になっていますが、計画性がない結果だと思います。ご本人のせいだけでなく、時代背景もあり、核家族化する前は、ペットも不動産も家族が当たり前のように引き継いでいたので、計画を立てるまでもなかったのだと思います。しかし、今はそうではありません。
不動産など他の財産との大きな違いは「ペットには命がある」ということです。昔のように何もしなくても誰かが面倒見てくれる時代ではありません。そのことが分かっているので、「ペット信託®」を依頼してくる方が増えているのではないかと感じます。事情があり、家族とは疎遠になっていたり、意見が合わないなど、相談者の周囲の事情は様々です。
自分が認知症・死亡後放置されないために
最近は、ペット飼育可の賃貸物件が増えてきましたが、まだまだ制約も多いので、ペットを飼っている方は持家など不動産を自己所有するケースが多いと思います。ご家族が同居の場合は、その方がお亡くなりになったとしても、ご家族がいらっしゃるので残されたペットも不動産も安心ですが、そうでない場合は対策が必要です。その時に使えるのが、信託です。
ペットも不動産も、信託によって事前に信頼できる人に名義のみを変えておきます。財産権はご自身が持ったままなので贈与税などの税金はかからずに、管理などを名義人になった人に託すことができます。そうすることで、ご本人が認知症になったとしても、お亡くなりになったとしても、ペットや不動産は放置されることなく、信頼されて名義人になった人が管理などを続けていくことになります。
そして、お亡くなりになった時に自分が持っていた権利を引継がせる人も指定しておくことができます。管理する人とは別の人を指定することもできるので、ご本人の状況に合わせて選ぶことができます。
遺言だと、認知症対策にもなりませんし、名義だけ変えるということもできないので、財産を渡してしまうことになり、引き継いだ人の自由になります。財産を持っていたご本人の意思が反映されなくても責めることは出来ず、自由に処分・譲渡できてしまいます。
ペットの飼育費用は他の信託財産で補う
信託を活用したわかりやすい事例は、自己所有不動産をお持ちでペットの飼い主の方がお亡くなりになった時に、その不動産を売って、その売却代金をペットの飼育費用に充てるというものです。自分が亡くなると不動産は必要なくなるので、売却してもらいます。そうすることで信託されている不動産は金銭に変わります。不動産が信託金銭に変わるわけですから、管理を任された信託財産の名義人である受託者と呼ばれる人は、その金銭を使って、信託財産であるペットを管理することになります。
もちろん、受託者本人が飼育する必要はありませんので、ペットの飼育施設に金銭の支払いをするという形でペットを飼育することもできます。そして、自分の財産を承継する人を決めておくので、その財産権を引継いだ人が新たな受益者となります。
受益者はペットという財産の権利を持っている人なので、自分のペットが施設でしっかり飼われているかどうか見守ることになります。自分の財産なのでしっかり守りますよね。そうするとペットの飼育費用は不動産で用意して、ペットがきちんと飼われているかは、受託者と受益者で見守ることになります。
飼育施設は信託契約の当事者にはならないので、施設が財産に対する権利を持つことはなく、ペットを自由に処分することは出来ません。登場人物が少ない場合、別の対策を取る必要が出てきますが、信託を使ってペットの将来を見守ることができるのは変わりありません。
監修:特定行政書士 松尾陽子(まつお ようこ)
よ・つ・ばグループ協同組合 親愛トラスト代表
略歴
2015年行政書士まつおよう子法務事務所開業。
16年1月ソレイユ九州発足、同年8月法人化し(一社)よ・つ・ば親愛信託普及連合に名称変更。17年9月協同組合親愛トラスト設立。現在は専門家向けの連続講座やZoomセミナーなどを通じて親愛信託の普及活動に励む。
著書に『理想・希望通りの財産管理を実現する!カップルのための「親愛信託」』(日本法令)、『ここまで使える!自己信託&一般社団法人を活用した資産承継・事業承継(河合保弘氏との共著)』(日本法令)などがある。
(第1022号 2019年10月16日発行 より引用)
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