脱炭素化に向けた制度改正
賃貸住宅やリフォームも
住宅金融支援機構は、脱炭素社会の実現に向け、10月1日付けで【フラット35】S(ZEH)、子育て世帯向け省エネ賃貸住宅建設融資、グリーンリフォームローンなどの制度改正を行った。そこで、同機構北海道支店長の東原文彦氏に今回の制度改正のポイントを聞いた。
3点セットが有効
―今回の制度改正の目的は。
世界的に温暖化対策が求められる中、日本では「2050年カーボンニュートラル宣言」を行っている。その中で、環境に配慮した質の高い住宅建設を進めることで、住みよい環境の中で次世代、次々世代までより良い暮らしを送るために、機構として国の省エネ基準義務化に先駆けて制度改正を行った。
―【フラット35】S(以下S)の制度改正について。
一番大きなものはSのZEHタイプ(以下SZEH)の創設。省エネ基準を上げるとコストもかかることから、金利引き下げ幅をSのAプランやBプランよりも大きくしている。対象はノーマルタイプ(『ZEH』)、ニアリー(Nearly ZEH)、オリエンテッド(ZEH Oriented)の3種類あり、それぞれ適用条件が設けられている。北海道はオリエンテッドが多いと思うが、条件を満たせばSZEHとして利用できる。
―補助金との重複は可能か。
SZEHと税制、補助金の3つをミックスして利用できる制度になっている。事業者には「グリーン化」か「こども未来」などの補助金、税制優遇、SZEHの3点セットの活用を勧めている。建設費が100―200万円程度上がってきており、多少でもコストを下げることをしないと、購買意欲が落ちてくるので、子育ての適切な時期に住宅を取得できるように支援できればと思う。
また、改正は基本的には10月以降に設計検査を行ったものからが対象となるが、すでに着工していて10月をまたいで竣工、資金実行が10月後半―11月など、9月、10月をまたぐ制度改正の谷間に関しては、スペック上の性能を満たしていることを竣工現場検査までに確認できれば、SZEHの対象となる経過措置を設けている。
仮にフラット35以外で住宅ローンの手続きを進めていても、フラット35は竣工検査の段階で技術基準が確認できれば資金実行できる。10月以降に竣工現場検査でBELS評価書を提出すれば、10年間最大0・5%引き下げを利用できる。SZEHだけでは、6―10年目までの5年間は0・25%引き下げとなるが、長期優良住宅など他の引き下げメニューを併用することで10年間最大0・5%引き下げとなるので、うまく利用してほしい。
―賃貸住宅の制度改正については。
持家需要は今後もしばらくは下がらないと思うが、若い人を中心に徐々に賃貸の方にシフトしていくということも想像しなければならない。賃貸住宅の制度改正もフラットと同じように長期優良住宅、ZEH対象に限定だが、これまでなかった新しい金利引き下げ制度を設けたので、こちらも力を入れていきたい。面積の対象はファミリータイプとなるが、50㎡以上を40㎡以上に緩和するので、多少は利用しやすさが広がるのではと思っている。北海道の最近の貸家の平均面積は、年々狭くなっている傾向があり、面積の緩和で、利用しやすくなると思う。躯体として長期優良住宅かZEH基準を満たした質の良い賃貸住宅を残す必要があり、機構としてはファミリー向けに限定して支援していくのが一番いいと考えている。
―分譲マンション並みの仕様を持つ賃貸マンションも増えてきている。
今回の制度改正を機に、道内の賃貸事業者を訪問し始めており、その中でニーズを拾っていきたい。すべてには対応できないが、賃貸市場で足りていない分野は質の高い住宅であり、中でも脱炭素など環境への配慮につながるものに機構が力を入れていきたいと思う。既存住宅の省エネ対策の中で賃貸住宅もやらないと2030年に向けて予断を許さない状況になっている。
今後7―8年でストックの性能を上げようとするとリノベーションを含めた賃貸住宅のレベルアップは必須。地方については子育て支援などで地域連携をしているが、地方移住者が最初に住む場所として、新築住宅よりはリノベーションした空き家や賃貸住宅を活用していかなければ、なかなか定住に結びつかないとも聞いており、今後は賃貸住宅にも力を入れていきたい。
―グリーンリフォームについては。
脱炭素については、既存住宅対策もやっていく必要があり、機構の直接融資としてグリーンリフォームローンを創設した。金利水準は現在検討中だが、金利を引き下げて保証料や手数料はなしとなる。金額の上限は500万円以内となるので、1000万円以内で収まるケースであれば利用しやすいと思う。中古住宅を購入し、リフォームやリノベーションして住むケースや、太陽光発電パネル設置や給湯器や断熱設備の見直しなど、省エネ機器の設置などで活用していただける。こうした省エネ向上リフォームにも力を入れていきたい。
―今期は。
着工そのものが減っているので苦戦しているが、北海道は数年前に底を打った感があり全国よりは落ち込みが少ない。その意味では今回の制度改正が起爆剤になればいいと思う。実力のある事業者は、国に近い機関の制度ということで、売りにもなると思うので、SZEHなどをうまく使って商機につなげてもらいたい。今回の制度改正は省エネの義務化、省エネ基準の引き上げなどコストアップの面もあるが、その分財政支援的な金利引き下げを利用できるメニューも増えたので、エンドユーザーがフラットを検討する素地ができたかなと期待している。
今後どうなるかは分からないが、欧米が利上げをしていく中で、日本でも金利上昇の機運がくすぶっている。長期固定金利の安心感を今のうちに理解していた方が幅広い選択肢になるので良いと思う。10月の住生活月間では「住宅フェア」もあり、そうした機会にしっかりメリットやデメリットを説明して制度の理解が深まるようにしたい。
ひがしはら・のりひこ
1967年7月20日、岡山県瀬戸内市生まれ。91年4月住宅金融公庫入庫。
13年4月東海支店債権管理グループ長、16年4月東北支店東北復興支援室長、19年4月広域金融機関業務部営業推進部門長を経て20年4月北海道支店長に就任。
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