石狩管内で札幌に近接する北広島、石狩、江別、千歳、恵庭の5市が、道内の新たな成長地帯として存在感を高めている。
ヒト・モノ・カネが道央に集まる中、札幌市内の宅地や工業用地が足りなくなり、移住者、企業が周辺地域に視線を向け始めた。各市はベッドタウンの域を超え、本道経済のけん引役に育つ可能性も秘める。各市の頭文字の組み合わせから一体を「KIECE(キース)」と総称し、あまり語られてこなかった実態を分析する。
本道経済のけん引役に育つか
札幌に近接する5市の伸びしろ
「地方は高齢者ばかり」「札幌以外は人口が激しく減っている」―こんな一般論がKIECEには当てはまらない。たとえば若者の割合。千歳市の全人口に占める19歳以下の比率は今年1月1日時点で18.5%と、全道の14.9%、札幌の15.2%を大きく上回った。千歳は自衛隊駐屯地があるために例外扱いされがちだが、実はほかの4市も17.6%~16.1%と、全市が札幌より高い水準にある。KIECEは道内でも、将来の担い手が多い地域と言えるだろう。
5市を一体的に捉えると、広域の成長エリアが浮かび上がる。KIECE合算の人口は、2021年10月末時点で40万3700人(一部11月1日時点)。単独でこれを上回る市は道内で札幌しかない。各振興局と比べても、上川管内全体の48万強に続く規模となる。
人口の増減はどうか。年初時点の人口を10年前と比べると1000人強の減少だが、5年前からは1100人増えている。全道に目をやれば10年で27万人減、直近5年では17万人強の減。違いは明らかだ。
世帯数は伸び続けている。21年の年初は前年より2300多い19万9700世帯となり、10年前から約1万世帯増えた。10月末時点を見ると20万1000世帯で、すでに20万台に乗っている。世帯は住宅購入の基本単位になるのはもちろん、日常的な買い物など経済活動の基礎でもある。
不動産取引も盛んだ。国交省によると5市の20年の土地売買件数は15年比で12%増の4805件。9月に道が発表した7月時点の基準地価調査では、住宅、商業地ともに上昇率トップ10の大半をKIECEが占めた。
税収も増える。20年度の各市の市税収入を合算すると522億円強で、10年前に比べて7.4%多い。コロナ禍で固定資産税の徴収猶予といった要素が生じたため、19年度比では1.5%減ったが、それでも千歳以外の4市はプラスだった。
旧来の工業団地像から進化図る
事業化によりエリア活性化目指す
企業や施設の具体的な動きを見よう。税収増は、堅調な企業立地があってこそだ。
菓子大手の明治(本社・東京)は23年、老朽化した札幌工場、旭川工場を恵庭市内に移転集約する。元々、原施設より大きな工場を建てられる土地を札幌で探していたが、見つからずに移転を決めた。同社担当者は「恵庭は全道各地を結ぶ道路インフラが整い、大消費地・札幌へのアクセスにも優れている」と説明する。札幌はこれまでの都市化で企業・事業者が密集した結果、大きな土地の各派が難しい。受け皿としてKIECEの注目度は増す一方だ。
旧来の工場団地像から進化を遂げようとしているのは石狩市。石狩湾新港内100ha分のエリアで、全企業が使う電力を再生可能エネルギーで賄う全国初の取り組みを検討している。進出企業の業種もあえて多様になるように調整。ESG(環境・社会・ガバナンス)といったビジネス界の最新動向に対応する。
このほか5年間で約30件の企業進出があった千歳市、北海道ボールパークFビレッジ建設で全国的に地名度が上がった北広島市も活況だ。江別市は工業団地がおおむね完売し、ほぼ新規物件がないにも関わらず月に数件のペースで問い合わせが入るといい、市は工業団地内の未利用地流通を促している。
働く場が増え、住む人が増えるに従い、街のインフラが発達する。江別市のJR野幌駅周辺は、この10年で姿を変えた。
顕著なのは南口で、現在、65部屋を備える「ホテルリボーン野幌」、市民活動センターの窓口などを置く市民交流施設「ぷらっと」が並ぶ。かつて路上駐車やバス停の散在などが課題だった駅前も、ロータリーの完成によって車両と人の同線が確保された。
市内の江別駅周辺では、5年前に閉校した小学校の跡地約2.3haが未利用状態にある。市が実施した市場調査では、戸建住宅向け用途が有望とされてきた。市は目下、民間事業者から意見を受け付けて、事業家によるエリア活性化を目指している。北広島駅・千歳駅・恵庭の島松駅にも駅前の整備計画がある。5市の景色は変わり続けそうだ。
道内トップクラスの成長地帯KIECE。進展から目が離せない。
(本紙第1064号 2021年11月1日1面より 一部編集)
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